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絵はがき 山田美穂さん提供
句集 『何處へ』抄 (自選) 昭和５７年〜５８年 佐藤 鬼房
海百合の幻花に一夜溺れゐる
島の背に魚座のわれや神無月
綾取の橋が崩れる雪催
あれは橿の木大晦(おおつごもり)を妻と寝る
海の無垢二句
海の藻をひけばたちまち青胸乳
新月や蛸壷に目が生える頃
木の末(うれ)に鳶雪催ひ雪の谷
浮鴎たるまま干潟なせるまま
桃一枝乾杯のみなささくれ手
いづこへか辛夷の谷の朝鳥よ
ひえびえと夕桜旧漁師町
雨漏りのわが頭蓋あり杉葉原
蟹と老人詩は毒をもて創るべし
蕗一葉ゆらぎぬ終(つひ)の日のために
柿の花地に落ち侏儒の頭蓋なる
幼年記 四句
お稲荷の木暗の姉が呼んでゐる
人買が来る熟れ麦の夜風負ひ
麦秋のとある日ふっと少年消ゆ
幼年の日の夕菅や溺れ谷
殺されてのちの乳房を思ふ夏
地霊めく葦原蟹(あしはらがに)や油照
高柳重信の霊に 四句
絶巓のああ天の弓毀れたり
陽はありき十九の夏の小石川
近浦も相模も雨の虚蟹(みなしがに)
おもひ栄え大暑無言の別れかな
草幽(くら)き一閨秀の晩夏かな
海の駅郷愁のみな背を見せて
青森暑し昆虫展のお嬢さん
下北の首のあたりの炎暑かな
日は暮れたり巌鬼(いはき)が裾の裸子よ
提げ来たる鈴虫が鳴く湧谷(わくや)駅
十六夜や藪も家並も谷の底
星飛べり空に淵瀬のあるごとく
夕鵙や遠きは遠く思ふのみ
宵闇のいかなる吾か歩き出す
秋雨の北空明り山鳩よ
山峡へ帰る人あり十三夜
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パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
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